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2022 年
片頭痛にはケトン食が有効
9月7日(水)
ケトン食は、体重の減量に役立ったり、てんかん発作の予防に役立つことが報告されていますが、今回は、片頭痛の発作予防に 有効である可能性が示されました。
イタリアからの報告によると、3ヶ月間のケトン食による食事療法により、食事療法前が12.5日、介入後が6.7日と減少し、50%以上減少した患者さんが65.2%だったとのことです。同時に、体重も、73.8kgから68.4kgに減少しています。
今回のケトン食は、4:1から0.5:1までと様々ですが、どの比率がいいかはわかっていません。
なお、体重は片頭痛のリスク因子ですが、体重減少とは別の機序で片頭痛が減少したことが示唆されています。
https://www.mdpi.com/2077-0383/11/17/4946/htm
低炭水化物食で発癌リスク増加
2月13日(日)
国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクトの研究グループから、多目的コホート研究JPHCのデータを用いて低炭水化物食とがん罹患との関連を調べた結果が報告されました。
45歳~74歳の女性男性で、アンケートに回答したがんの既往歴がない9万171例を17年間追跡し解析した結果によると下記の結果が得られました。
1)炭水化物摂取が低いほど
①全部位の癌の上昇
②直腸癌の上昇
③胃癌リスクの低下
とくに動物性食品が増え低炭水化物になると癌リスクがますが、植物性食品ではその傾向は認められなかったとのことでした。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17093250/
国立がん研究センターがん対策研究所プレスリリース
血液型A型の人は脳梗塞発症に注意?
9月23日(金)
国際的に権威ある神経学医学雑誌から、血液型と脳梗塞発症リスクとの関連が報告されました。
世界各地で報告された48の研究で、60歳前に脳梗塞を発症した人16730人と、発症しなかった599237人を比較したところ、A型の人の脳梗塞発症リスクは16%高く、逆にO型の人は12%低かったとのことでした。
A型の人は、喫煙や経口避妊薬などの血栓形成が促されやすく、静脈血栓閉塞症のリスク上昇も報告されています。
血液型が全てを運命づける訳ではありませんが、自分の特徴をしってリスクを回避する生活をすることはとても重要です。
その他、血糖値、血圧、コレステロールも関係しますので、健診や人間ドックで異常を指摘された人は、できるだけ早く医療機関に相談する方がいいでしょう。
https://n.neurology.org/content/early/2022/08/31/WNL.0000000000201006
2021 年
正常血圧でも降圧薬を内服するメリット
6月6日(日)
例え正常血圧であっても、収縮期血圧を5mmHg低下させることで、心血管イベント(脳卒中、心筋梗塞、虚血性心疾患)のリスクが10%低下することが報告されました。
1次予防(初めての発症)でも、2次予防(再発予防)でも、例え血圧は高くなくとも高血圧を内服することは、心血管イベントの発症を低下させることから、降圧薬を単に血圧を下げるお薬としてではなく、予防薬として捉えた方がよいという内容です。
本研究は、48件の無作為化臨床研究が含まれ、34万例以上が対象となっている大きな研究で、追跡期間の中央値は4.15年でした。
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00590-0/fulltext
コレステロールの治療はいくつになっても続けた方がいい。
8月25日(水)
いつまでコレステロール低下療法は続けるべきかは難しい問題です。1つの答えとして、65歳以上では続けるべきとの研究結果が報告されています。スタチンという薬を中止した群では、心血管アウトカムの不良が認められました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34125221/
75歳以上でも、中止すべきではないということがまとめられています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33186535/
いずれも日本人を対象とはしていませんが、心筋梗塞や脳梗塞を発症した人においては、二次予防のために続けておくことは必要だと考えられます。
もちろん、治療は個別化されるべきであり、その人の健康状態によって治療は選択しなければならないことは変わりありません。
コーヒーを1日2杯以上で肺炎が少なくなる
5月12日(水)
コーヒーをよく飲む人は、心血管疾患や糖尿病の発症リスクが低いことは以前から報告されています。
今回、日本人において、コーヒー摂取が多い人は、肺炎のリスクが低下することが示されました。
肺炎救急ワクチン接種や体格指数、糖尿病等の基礎疾患で調整すると、コーヒーを全く飲まない人と比べると、コーヒーを2杯以上毎日飲む人では、オッジ比が0.5と低くなっていました。
一方、緑茶については、5杯以上まで解析しても有意な差はなかったとのことです。
なお、コーヒー2杯分のカフェインは、緑茶6杯分に相当するとのことです。
https://www.nature.com/articles/s41598-021-84348-w
降圧薬の長期使用とがん罹患リスク
5月12日(水)
JPHC Studyのデータを用い、降圧薬の長期使用とがん罹患リスクとの関連が報告されました。JPHC研究は、日本人68000人を対象とした多目的コホート研究です。
年齢、性、地域、体格指数、喫煙、飲酒、糖尿病罹病歴、塩分摂取量(胃がんに関して)、慢性肝炎や肝硬変の既往(肝がんに関して)、出産歴(乳がんに関して)を調整して解析すると、降圧薬なし群に対し、10年以上降圧薬内服群では、全部位(1.08倍)、大腸(1.18倍)、腎(2.14倍)のがん罹患リスク、5~10年内服群では腎(3.75倍)のがん罹患リスクの有意な上昇と関連していました。
がんは2人に1人がかかる時代です。とくていのがんに限らず、がん検診を受けることが求められます。とくに、腎臓に関しては、超音波検査などを受けておくことが望ましいようです。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.14870
高GI食は心血管疾患と死亡リスクの増大を関係する
4月4日(日)
5大陸から20カ国が参加したPURE研究の成果が発表されました。研究は、グライセミックインデックスと心血管疾患と全死因死亡との関係を調査した研究で、35~70歳、13万7851人が解析されました。
その結果、年齢、性別等複数要因について調整後、GIが最も高い群(Q5:中央値91、IQR:90~91)は、最も低い群(Q1:中央値76、IQR:74~78)と比較して、心血管疾患の既往の有無にかかわらず、複合エンドポイントのリスクが高く(既往ありのHR:1.51[95%CI:1.25~1.82]、既往なしのHR:1.21[95%CI:1.11~1.34])、高GIは、複合エンドポイントのうち心血管死のリスク増大とも関連していました。
糖尿病に限らず、炭水化物も複合炭水化物など食物繊維の多いものを摂取することが大切です。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2007123
妊婦と解熱剤の使用上の注意
4月4日(日)
アメリカでは2020年10月に、解熱鎮痛薬(NSAIDs)を妊娠20週以降に服用すると合併症のリスクが高まる可能性があるとして、食品医薬品局(FDA)が「妊娠20~30週の妊婦に対するNSAIDsの処方は限定的にし、必要な場合にも、最小限の用量で可能な限り最短期間の処方とする旨の注意喚起を行う」と改訂していました。
日本においては、2月25日に、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課から、NSAIDsの添付文書改訂が指示され、これまで以上に注意が必要な状況となっています。
妊婦さんにおいては、鎮痛剤の使用は慎重に、困った場合は、医療機関で相談しましょう。
https://www.pmda.go.jp/files/000239396.pdf
糖尿病治療薬と新型コロナ感染症
糖尿病では、現在の糖尿病治療を続けていて大丈夫だろうかと不安に思っている患者さんも多いと思います。しかし、現時点では、世界のいずれの国からも、糖尿病治療薬が危険であると言うことは報告されていません。
例えば、メトホルミンでは、2型糖尿病では世界では最初に最も処方される薬剤ですが、新型コロナの死亡リスクとは関係していないと報告されています。
https://academic.oup.com/jcem/advance-article/doi/10.1210/clinem/dgab067/6131731
一方、DPP-4阻害薬では、シタグリプチンを投与していた群と標準的な治療をしていた群との比較では、シタグリプチン(DPP-4阻害薬)が追加投与されていた群で、入院した患者さんの死亡率が改善したと報告されています。
https://care.diabetesjournals.org/content/43/12/2999.long
現在受けている治療を中断せず、不安に思った場合は、必ず主治医の先生に相談するといいでしょう。
果物と野菜の摂取量と死亡率
4月4日(日)
果物と野菜の摂取量と死亡率の関係を示す、前向きコホート研究で発表されました。研究は、Nurses' Health Studyの症例で、33898人が解析されています。
その結果、果物と野菜の摂取量がサービング、あるいは果物2サービングか野菜3サービングで、死亡率が最も低く、リスク比は0.87でした。
野菜不足にならないよう、また、果物の摂取が少ない人は、時々は摂るように心がけることが重要です。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.120.048996?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&rfr_dat=cr_pub++0pubmed&
*1サービングとは80gを指す
2020年
低用量コルヒチンと心血管イベントリスク
LoDoCo2試験の結果が報告されました。
痛風発作では、コルヒチンがしばしば治療薬として用いられますが、今回、低用量コルヒチンが心血管イベントを31%抑制することが示されました。
対象は、安定冠動脈疾患を有する患者5552人(年齢66歳、女性15.3%)で、抗血小板薬または抗凝固薬が99.7%、脂質低下療法が96.6%、β遮断薬が62.1%に、AEC阻害薬/ARBが71.7%に投与されていました。患者さんは、低用量コルヒチン0.5mg/日使用群と非使用群に割り付けられ、中央値で28.6ヶ月間追跡されました。
結果は、非使用群で9.6%の心血管イベントが発症し、使用群で6.8%であり、コルヒチン使用群のハザード比0.69でした。ただし、虚血性脳卒中や全死亡には有意差はありませんでした。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2021372?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed
全粒穀物の摂取と2型糖尿病発症リスクとの関係
アメリカの3つの前向き研究( Nurses’ Health Study (1984-2014), Nurses’ Health Study II (1991-2017), Health Professionals Follow-Up Study (1986-2016))から、女性158,259人、男性36525人を対象にした、2型糖尿病発症リスクと全粒穀物摂取の関係を調べた研究成果が発表されました。
最も多く全粒穀物を摂った群は、最も少なかった群に比べ29%発症が低下していました。また、それぞれの食品別ハザード比は、1日1皿以上の冷たい朝食用全粒シリアル0.81、全粒粉パン0.79、ポップコーン1.08、週2皿以上のオートミール0.79、玄米0.88(同0.82-0.94)、小麦ふすま0.85、小麦胚芽0.88で、ポップコーン以外は有意に発症が低下していました。
さらに、これらの効果は、肥満や過体重の人に比べ、比較的痩せている人(BMI<25)でリスクの低下(p<0.003)が認められ、家族歴や喫煙、身体活動量の影響はなかったとのことでした。
糖尿病の発症を予防するには、しっかりと、朝食には食物線維の多い炭水化物を摂取するといいようです。
https://www.bmj.com/content/370/bmj.m2206.long
日本人の認知症リスク
九州大学から、日本人の認知症の障害累積発症率が報告されました。
対象は60歳以上の1193例、17年間に亘る前向きの研究結果です。その期間で350人が認知症を発症しました。そのうち、191例がアルツハイマー病、117例が血管性認知症でした。
解析の結果、認知症の生涯リスクは55%であり、女性は男性に比べ1.5倍高く65%(男性41%)でした。
http://www.neurology.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=32636320
「京のひろば」では認知症に役立つ食事や運動を公開しています。ご覧ください。
降圧薬がうつ病リスクを低下させる
デンマークからの報告です。
約370万人を国民のデータを解析した結果によると、降圧薬がうつ病リスクを低下させる可能性が報告されました。
さまざまな降圧薬の中で、ACE阻害薬2種類(エナラプリル、ラミプリル)、Ca拮抗薬3種類(アムロジピン、ベラパミル、ベラパミル合剤)、β遮断薬4種類(プロプラノロール、アテノロール、ビソプロロール、カルベジロール)の計9種類がうつ病リスクを低下させ、利尿薬では低下させることはありませんでしが、上昇することはありませんでした。
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/HYPERTENSIONAHA.120.15605?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&rfr_dat=cr_pub++0pubmed&
75歳以上の高齢者における心血管イベント抑制に対するスタチンの有用性
高コレステロール血症の治療薬であるスタチンは、心血管イベントを抑制し、とくに2次予防では必須となっています。また、心血管イベントリスクの高い人では、スタチンによる1次予防(初発を防ぐ)も重要です。
今回は、75歳以上の高齢者においても、それまでアテローム動脈硬化精神疾患がない場合でも、新規のスタチンの治療が、全死因死亡ならびに心血管死のリスクを低下させることが報告されました。32万6981人が解析対象でしたが、スタチンを使うことにより全死因死亡のリスクはハザード比0.75、心血管死亡もハザード比0.80でした。しかし、心筋梗塞や虚血性脳卒中は変わりがありませんでした。
スタチンは副作用がないわけではありませんので、使用にあたっては主治医をよく相談しましょう。
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2767861
頻回の低血糖は心血管イベントリスクを上昇させる
アメリカ糖尿病学会2020年からのトピックです。これまでも、低血糖、とくに重症低血糖は1回でも発症すると心血管イベントリスクを上昇させることが報告されています。今回は、2型糖尿病患者さんを対象に、低血糖の頻度と心血管イベントリスクとの関係が報告されました。
182000例の症例が解析され、約4%で低血糖が起きていました。1年に5回を超える低血糖をきたした群では、それより頻度が少ない群と比べ心血管イベントが61%上昇していました。とくに、不整脈、脳血管発作、心筋梗塞のリスクが上昇していました。これは、年齢には関係なかったとのことですが、脳梗塞はやや少なかったようです。
https://diabetes.diabetesjournals.org/content/69/Supplement_1/161-OR
原発性アルドステロン症の頻度は高い
高血圧の原因として、原発性アルドステロン症は有名な疾患の一つです。場合によっては手術が必要になる高血圧症です。しかし、その多くが見逃されている可能性が示されました。
アルドステロンは、腎臓の上に位置する副腎という臓器から分泌されるホルモンです。アルドステロンが過剰に分泌されると、塩が体内に貯留しやすくなります。
今回のアメリカからの報告(横断研究)では、重度の高血圧症の約22%、軽症の16%に原発性アルドステロン症が認められたとのことでした。
日本においても、10%前後の比率で認められるといわれています。実際に、当院でも、年間数例の疑いが認められます。まずは血液検査などでスクリーニングできます。単に血圧が少し高いからと軽視せず、原因が何かはっきり伝えられたことがない方は、一度検査した方がよいでしょう。
大腸内視鏡検査はいつまですべきか
大腸癌は多い癌の一つですが、検診では大腸内視鏡が勧められます。しかし、決して楽な検査ではなく、また、何歳まで検査すべきから明らかではありません。
今回、カナダから、75歳以上の高齢者を対象に、大腸内視鏡のリスクに関して報告がありました。本研究では、医療管理データーベースを用いて50歳以上で大腸内視鏡を受けた38069例(平均年齢65.2歳、女性50%)において、リスクが評価されました。その結果、年齢とともに合併症発症率は高くなり、とくに75歳以上ではリスクが高くなりました。その他、貧血、不整脈、うっ血性心不全、高血圧、慢性腎臓病、喫煙歴、肥満があると合併症リスクは高くなりました。
75歳以上の方で、併存疾患がある方は、大腸内視鏡では十分にリスクを考慮し受ける必要があります。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2767639
高血圧治療と認知症・認知機能障害との関係
これまで、降圧効果による認知症発症予防効果との関係は必ずしも明らかではありませんでした。今回JAMAからの報告では、これまで報告された14の無作為化試験の結果をランダム効果モデルと用いて解析し、その関係を明らかにしました。
認知症に関連した12の試験(92135例)の解析では、平均追跡期間4.1年において、認知症または認知機能障害の発症は、絶対リスクで0.39%有意に低い結果でした。
一方、降圧治療によって認知症テストのスコアは改善しませんでした。
絶対リスクは高くはありませんでしたが、人口が100万人の場合は、0.39%の低下でも大きな数になることは明らかで、しっかりとした高血圧の治療が望まれます。
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2766163
若年1型糖尿病では、持続血糖測定が血糖コントロールの改善に有効
12歳~24歳の1型糖尿病患者さんを対象としたアメリカの研究結果です。14施設が参加し、153人(平均年齢17歳、女性50%、平均罹病期間9年)が登録されました。
持続血糖測定を行った群では、26週後にHbA1c 8.9%から8.5%に改善したのに対して、通常の血糖測定では8.9%のままで変化がありませんでした。
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2767160
御所南はらしまクリニックでは、3種類の持続血糖測定が可能です。高価ではありますが、若い頃の血糖コントロールが、その後の10年、20年先の合併症を左右してしまいます。可能であれば、持続血糖測定を行うことをお勧めします。
ただし、下記の5つの論文に示すように、私たちの行った血糖測定の方法でも、大きな血糖改善効果があります。是非ご相談ください。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29949015/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27653670/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26428934/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24506479/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23008090/
砂糖入り飲料は女性の心血管リスクを高める
カルフォルニアの女性教師を対象としたCalfornia Teachers Studyからの報告です。
これまで砂糖入り飲料が心血管イベントリスクを高めることは明らかとなっていますが、総摂取量や種類との関係は限定的でした。今回の報告では、10万人以上で20年間追跡調査が実施されました。
その結果、砂糖入り飲料を1日1回飲む女性は、ほぼ全く飲まない女性に比べると、心血管イベントリスクが19%、脳卒中リスクが21%有意に増加することが明らかになりました。また、飲料の種類に関しては、砂糖が加えられたフルーツジュースでは42%、ソフトドリンクでは23%、心血管疾患リスクが有意に高い結果となりました。
より健康的を思われるフルーツジュースでも、砂糖が加えられている場合は注意が必要なようです。
https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/JAHA.119.014883
高脂肪食を食べた後は注意力が散漫になる
高脂肪食摂取に伴う内毒素の増加は認知機能の低下と関係していることは明らかでしたが、慢性的な影響ではなく、摂取した直後の影響は明らかではありませんでした。
今回の研究では、51人の女性(平均年齢53歳)を対象に、飽和脂肪酸が多く含まれる食事と、ヒマワリ油を使った不飽和脂肪酸が多く含まれる食事の2群に分け、食事の5時間後にコンピュータを使って注意力の検査が施行されました。
その結果、飽和脂肪酸食事群では、不飽和脂肪酸食事群に比し、注意力が11%低下していました。また、どちらの群でも、内毒素が多い腸管透過性が高い女性では、注意力が低下しやすい結果でした。
内毒素との関係はまだ明らかではありませんが、いずれにせよ、高脂肪食の摂取は、とくに試験前や大切な会議などの前には食べない方がいいかもしれません。
糖尿病の疑いがある人でも骨折リスクは高い
糖尿病の人だけでなく、糖尿病の一歩手前でも、骨折リスクに注意が必要です。
糖尿病は骨粗鬆症のリスクであることはわかっていましたが、今回の報告では、前段階でも骨折リスクが高いことが報告されました。一方、前段階では肥満も多いため、骨密度は却って高いという一見相反するような結果でした。
米国国民健康栄養調査のデータを基に、40歳以上の正常耐糖能者5162人、糖尿病前症5310人の大腿頚部と腰部の骨密度と骨折の既往が調査されました。いずれの群も、年齢とともに骨密度は低下しており、とくに60歳以上で骨粗鬆症の有病率は高くなりましたが、糖尿病前症では、より骨折リスクが高いとのことでした。
血糖値が少し高いと指摘されている方も、早期から骨密度を測定することが重要なようです。
https://care.diabetesjournals.org/content/early/2020/02/27/dc19-1807
糖尿病では血圧の変動が大きいと心不全リスクも高くなる
過去に実施された2型糖尿病の大規模臨床研究であるACCORD試験とVADT試験の集団を用いて血圧変動と心不全リスクとの関係が調査されました。
ACCORD試験では、収縮期血圧、拡張期血圧とも、血圧の変動係数と平均血圧変動幅は、心不全リスクの増加を関連を示しました(ハザード比:収縮期1.15、拡張期1.18)。VADT試験では、拡張期血圧の変動が心不全リスクの増加と相関していました(ハザード比:平均血糖変動幅1.16、変動係数1.09)。
とくに、拡張期の虚血時間の結果として心不全リスクが増加すると考察されています。
https://care.diabetesjournals.org/content/early/2020/05/11/dc19-2540.long
コーヒーは苦味を減らし甘味を強くする
デンマークからの報告です。
コーヒーは世界で最も好まれている飲料の一つですが、味覚に与える影響はあまり検討されていませんでした。今回、156人を対象に、エスプレッソを二口で飲み干し、2分以内に水道水で口腔内を洗浄したのち、味覚が変化したかが検討されました。
その結果、甘味に関する感度は上昇し、苦味に関する感度は低下しました。この結果は、カフェインを含む、含まないに関係なく、同様の効果が認められました。
甘味を強く感じたい人は、コーヒーと一緒にケーキなど食べるといいかもしれません。また、緑茶でどうなるかなど、興味があるところです。
SGLT2阻害薬のダパグリフロジンが左室駆出率低下の心不全に適応
米国食品医薬局(FDA)は、ダパグリフロジンの左室駆出率低下の心不全に対する適応を承認しました。
当薬剤は、日本においては、2型糖尿病と1型糖尿病で保険適応があります。同系統の薬剤は、血糖コントロールの改善のみならず、心臓や腎臓、肝臓の保護効果が認められたり、尿酸値や血圧が低下したり等、さまざまな作用が報告されています。
まだ日本では心不全に投与できませんが、近い将来、心不全の有望な治療薬と考えられています。
ただし、不適切な使用でケトアシドーシスや脱水など、副作用が認められるため、安易な使用には注意が必要です。
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-approves-new-treatment-type-heart-failure
肥満手術後の骨折リスク
スイスからの報告です。
3種類の肥満手術(胃バイパス術、胃バンディング術、垂直遮断異形成術)を受けた人と、条件を一致させた肥満者を比較し、術式と骨折リスクの増加を26年間(中央値16年前後)フォローアップしました。
胃バイパス術では、対照群と比べ調製後のハザード比は2.58と最も高く、次に垂直遮断異形成術で2.15、胃バンディング術で1.99と、いずれも骨折リスクの増加が認められました。
日本では、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険適応で、糖尿病や高血圧、脂質異常症の1つ以上を合併している体格指数BMIが35以上の方に限られます。
いずれにしても、術後に安心することなく、長期に亘って管理をしていくことが重要です。
小児期と成人期の肥満と疾患リスク
小児期に肥満であることが、成人になったときの生活習慣病にどのような影響があるか評価されました。
小児期に肥満であると心血管疾患と2型糖尿病のリスクが高まる可能性は、多変量解析の結果では、その関係性は消失しました。
一方、癌の発症に関しては、乳癌は、小児期で肥満であると、成人期のどのような体型であったとしてもリスクが高まることがわかりました(オッズ比0.59)。また、初潮の年齢が早いと乳癌のリスクが高まることも示されました(オッズ比0.90)。一方、前立腺癌との関係性は見いだされなかったようです。
小児肥満は、ある種の癌に対してはリスクとなり得るようであり、注意が必要です。生活習慣病に関しては、小児期の肥満よりも成人期での肥満が問題のようです。
帝王切開で生まれた成人女性は肥満と2型糖尿病の発症リスクが高い
看護師を対象とした大規模調査研究 Nurses' Health Study II の追跡調査により、帝王切開で生まれた女性は、成人期に2型糖尿病や肥満になる可能性が高いことが報告されました。
調査は、1946年から1964年に生まれた女性33226人を対象としました。年齢や母親のBMIなどさまざま因子を調整した結果、肥満になる確率はハザード比1.11、2型糖尿病は1.46と高くなっていました。
ただし、年代は古く、糖尿病発症が多くなることなどの要因は不明です。今後さらなる研究の進展がひつようなようです。
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2764346
オリーブオイルの高摂取は、心血管リスクと相関
看護師を対象とした大規模調査研究 Nurses' Health Study(女性)とHealth Professionals Follow-up Studyの追跡調査により、男女ともオリーブオイルの摂取量が多い( 1日当たり大さじ半分または7g超)と、全心血管疾患と冠動脈心疾患の発症リスクが低下することが報告されました。一方、虚血性脳血管障害とは関係が認められませんでした。マーガリンやマヨネーズ、バター5g相当をオリーブオイルに置き換えることで全心血管疾患と冠動脈疾患が5~7%低下したとのことです。
過去には、2型糖尿病の発症を負の相関があることが報告されています。
2019年
12月の話題
酸化コレステロール
日本動脈硬化学会からの報告
動脈硬化は、糖尿尿や高血圧などの生活習慣病や、喫煙や過度のアルコールなどで引き起こされます。とくに、動脈硬化を促進する「超悪玉コレステロール」は、小型で密度の高いLDLともいわれ、血管壁に取り込まれ酸化されることでプラークを形成すると言われています。この「酸化コレステロール」は食品の中にも含まれています。
以前からもいわれていましたが、今回改めて、日本動脈硬化学会から、酸化コレステロールを含む食品を避けた方がよい後援がありました。
例えば、マーガリンやマヨネーズの偏食した部分、二度揚げされた揚げ物、漬け込んだ魚卵、インスタントラーメンの麺、加工肉、するめやビーフジャーキーなどUV照射を受けた食品、ファーストフードのフライドポテト、焼き鳥の皮の部分などがあたります。
昨今取り上げられいる地中海食や、塩分を押さえた和食は、上記を含まないよい食事となります。とくに、酸化を還元するポリフェノール、ビタミンC、食物線維などは、健康を維持するためにたくさん摂取するとよいでしょう。
赤身肉が心血管代謝とがんに与える影響
赤身肉の摂取が多いと、心血管死やがんによる死亡を高めることが報告されています。 今回の報告では、赤身肉の摂取量が減った場合に、心血管イベントや発がんに対して影響が出るかどうかシステマティック・レビューがなされました。
12の無作為化臨床試験の中で、最も信頼できるとされたWomen's Health Initiative Dietary Modification Trialの結果が解析されました。結果、赤身肉や加工肉が少ない食事は、それらが高い食事に比べて、全死亡(ハザード比[HR]:0.99、、心血管死亡(HR:0.98)、心血管疾患発症(HR:0.99)について、影響しない可能性が高く(エビデンスの確実性は「low」)、さらに、がん死亡(HR:0.95)、大腸がん発症(HR:1.04)と乳がん発症(HR:0.97)を含むがん発症に影響しないというエビデンスも得られました(エビデンスの確実性は「low」から「very low」)。
ただし、論文中で著者らは、イギリスやアメリカなどが推奨している赤身肉摂取のガイドラインを否定しているわけではないと述べています。過度な肉ばかりの摂取は、心血管イベント発症や発がんにマイナスの影響があることは間違いないと考えられます。
11月の話題
食塩およびカリウム摂取と心血管イベントとの関係
日本人は比較的食塩感受性がある民族とされ、高血圧全体の30~40%が食塩感受性高血圧といわれています。食塩摂取の制限は、「高血圧診療ガイドライン2019」では6g未満が推奨され、また、高血圧でない一般成人では男性8g未満、女性7g未満が目標値とされています。しかし、WHOは、2012年に5g未満を推奨しており、日本人の食生活では実現困難な目標が定められています。
しかし今回、食塩摂取量と心血管イベント発症との関係では、Jカーブを示す結果が報告されました。さらに、カリウム摂取と食塩摂取の両者を組み合わせ、心血管イベント発症との関連を示しています。バングラディッシュ、ジンバブエ、アルゼンチン、ブラジル、チリ、マレーシア、ポーランド、南アフリカ、トルコ、中国、コロンビア、イラン、カナダ、スウェーデン、パレスチナ、アラブ首長国連邦の35~70歳、103570人が参加し、103200人のデータが解析されましたが、41.8%が中国人でした。
平均観察期間は8.2年、平均の食塩摂取量は12.4gでした。まず食塩摂取単独の解析では、10.2~12.7gの食塩摂取の群と比べると、7.6g未満群ではハザード比1.19、17.8g以上群では1.23と高くなりました。また、食塩7.6g~12.7gにカリウム摂取が1日2.1g以上が組み合わさると更に心血管イベント発症が低くなる結果が得られました。
厳格な塩分制限がいいのか、適度な塩分摂取にカリウムを十分摂取する方がよいのか(腎機能低下のある方は注意)、今後の研究の積み重ねが待たれます。
マリンオメガ3と大血管症
J AM Heart Assoc 2019 Oct;8e013543
魚油の摂取と大血管症発症との関連は、よい効果が多く発表されている一方で、必ずしも確立した報告はありません。しかし、日本のみならず海外でも、積極的に魚油、マリンオメガ3脂肪酸の摂取している人が増えています。
今回は、これまでの13の無作為化臨床試験から過去最大の127477人のデータを解析し、マリンオメガ3脂肪酸と心血管イベント発症との関係が検討されました。
平均年齢は、64.3歳、男性が59.7%、BMI28.0、糖尿病者39.4%で、マリンオメガ3脂肪酸の摂取量は平均で840mg/日相当で、5年間サプリメントを摂取していました。
マリンオメガ3脂肪酸摂取者は、非摂取者に比べ、心筋梗塞が0.92、冠動脈死が0.92、心血管死が0.95などと低い頻度でした。また、用量依存性が認められ、1日あたりマリンオメガ3脂肪酸摂取量が1000mg増加する毎に、脳卒中は全体の解析では発症頻度は下がらなかったものの0.89と低くなり、心血管症は0.91低くなる結果が得られました。
用量依存性が認められたことは注目すべき点とされています。糖尿病や心疾患の既往がある人などは、マリンオメガ3脂肪酸のサプリメントを摂取することが望ましいと言えるかもしれません。
10月の話題
ソフトドリンク消費と死亡率の関係
現在では、ソフトドリンクを飲まない人はほとんどいないかもしれません。とくに人工甘味料を使ったダイエット飲料も増えていますが、健康被害への影響は明らかではありません。今回は、ソフトドリンクと死亡リスクとの関係がヨーロッパ10カ国のコホート研究により発表されました。
集団は451743人に及び、平均年齢は50.8歳、追跡期間は平均16.4年でした。
総死亡率は、一月に1杯未満しか消費しない群を対照とした場合、1日グラス2杯以上飲む群では、ハザード比が1.17倍であり、砂糖を含む群で1.08倍、人工甘味料を含む群で.126倍という結果でした。また、消化器疾患や循環器疾患による死亡率も高くなることが報告されました。
とくに人工甘味料はダイエットに有用だとされる一方で、かえって健康被害、例えば糖尿病の悪化をもたらすことが懸念されています。過剰の摂取にならないように心がけることは大変重要だと考えられます。
喫煙とインフルエンザ感染
喫煙とインフルエンザ感染との関係は明らかではありませんでしたが、今回発表された システマティック・レビューでは、喫煙者は非喫煙者に比べ、インフルエンザを発症するリスクが高いことが明らかとなりました。
9つの質の高い研究において、40685人の参加者の解析がなされました。インフルエンザ検査でインフルエンザ感染が証明された3つの研究では、喫煙者は非喫煙者に比べ5倍発症リスクが高く、インフルエンザ症状を呈した割合も、6つの研究から喫煙者では非喫煙者に比べ34%発症リスクが高かったことが証明されました。
インフルエンザに限らず、喫煙は、癌や心血管系イベント、慢性閉塞性肺疾患など多くの疾患の発症リスクを高めます。また、他者への健康被害を引き起こし、巻き込むことになります。
9月の話題
日本人の海藻摂取と脳血管リスクとの関係
日本人は他の国々の方に比べて、比較的多くの海藻類を食べます。海藻は、食物線維が多く、ミネラルやビタミンが豊富で、低カロリーと、いいイメージが多いと思いますが、海藻の摂取そのものが脳梗塞や心筋梗塞に与える影響は明らかではありませんでした。
今回の日本からの報告、JPHC研究では、海藻摂取が多いと、虚血性心疾患の発症が少なくなると報告がされました。
男性40707人、女性45406人を対象としています。
男性では、海藻をほとんど摂取しない人を基準にすると、ほぼ毎日摂取する人のハザード比は、虚血性心疾患で0.76、心血管全体で0.88でした。
女性では、同様にほとんど摂取しない人を基準とすると、ほぼ毎日摂取する人のハザード比は、虚血性心疾患で0.56,心血管全体で0.89でした。
脳卒中と海藻摂取との間にはリスクの有意な関連は認められず、男女とも虚血性心疾患で有意にリスクが減少することが明らかとなりました。
ベジタリアンでは、虚血性心疾患のリスクは低下するが、脳卒中のリスクは高くなる
18年目を超えた前向きコホート研究「EPIC-Oxford研究」の結果が報告された。
本研究では、4万8188人の参加者を対象に、肉食(肉を食べる人)か、魚食(魚は食べるが肉は食べない人)か、菜食(ベジタリアン)かの3つの群に分けて、既往のない新規の心血管疾患の発生が調査された。
18.1年以上の追跡調査がなされた。
虚血性心疾患は、肉食群と比較して、魚食群で13%、菜食群で22%の発生頻度の低下が認められた。
しかし、菜食群では、肉食群に比べ脳卒中の発生が20%増加していた。
今回の解析では、スタチンの使用データーが利用できなかったため、その影響が排除できない。いずれにしても、バランスのよい食事に勝る物はないのかもしれない。
8月の話題
夜間頻尿は死亡リスクを上昇させる
夜間頻尿は年齢を重ねると男女を問わず共通の問題になります。クリニックでも、生活に困るため、糖尿病などの生活習慣病よりも訴えが多くなるないようです。
今回の系統的レビューでは、夜間頻尿があるだけで、死亡リスクが約1.3倍になると報告されています。
11の観察研究がエビデンスレベルが高いとされ、その解析結果では、死亡リスク比は、1.27倍でした。60歳以上では、5年死亡率絶対差は1.6%、75歳以上では、同差は4.0%とのことです。
上記は、年齢、性別、研究地域などによる違いはないとのことでした。
夜間頻尿で、睡眠障害を来している方は、ご相談ください。
コーヒーは心房細胞リスクを減少させるか?
J Am Hear Assoc 2019;8:e011346
コーヒー摂取は、心房細動リスクを上昇させるのか、させないのか、コーヒー好きには気になる内容です。
今回の研究は、男性医師を対象に行われました。1万8960人が参加するPhysicians` Health Studyに登録された男性医師で、コーヒー摂取は自己申告によるもので、前向き調査で行われました。
結果は、平均年齢66.1歳、平均追跡期間は9年で、その間に2.098人に心房細動が発症しました。年齢や喫煙、飲酒、運動を調整した後の心房細動のハザード比は、コーヒーをほとんど摂取しない人を基準にすると、週に1杯以下が0.85、週に2~4杯が1.07、週に5~6杯が0.93、1日1杯が0.85、1日2~3杯が0.86、4杯以上が0.96で、1日1~3杯のコーヒーが、心房細動リスクを有意に減少させる結果でした。
砂糖やフレッシュの使用は不明ですが、通常はブラックがいいでしょう。
7月の話題
LDLコレステロール値と脳出血の関係
6月にご紹介したNeurologyの報告の続編といえる内容です。
今回は、LDLと脳出血の関係が調べられました。96043人、平均年齢51.3歳のコホートで、LDL値は、2006年、2008年、2010年、2012年の4回測定され、9年間フォローされています。
LDL値が70-99mg/dLの群は、LDL 100mg/dL以上と比べ、脳出血のリスクは同等でした。一方、LDL値が70mg/dL未満の群では、70-99mg/dL群に比べ脳出血のリスクが高く、ハザード比は、50-69mg/dL群で1.65、50mg/dL未満群で2.69と高値になりました。動脈硬化性疾患の発症を予防し、同時に脳出血をきたさないためのLDL管理目標値を定めることが重要になるかも知れません。
砂糖入り飲料水と発癌リスクとの関係
加糖飲料や100%フルーツジュースの消費量が多い人は、何らかの癌を発症するリスクが高いことが報告されました。
住民ベースの前向きコホート研究でフランスからの報告です。18歳以上、101257人を対象とし、最初の2年間の食事調査に基づき個人の砂糖入り飲料水の消費量を計算し、その後の癌の発症のイベントを追跡しました。平均年齢は42.2歳、観察期間の中央値は5.1年、全体の砂糖入り飲料の平均は1日あたり92.9mL、100%フルーツジュースの消費量は55.8mLで、癌診断時の平均年齢は58.5歳でした。
1日あたり100mLの消費量の増加は、あらゆる癌のリスク上昇がハザード比1.18で、乳癌は1.22でした。前立腺癌と大腸癌は関連は認められませんでした。一方、100%フルーツジュースの場合は、同様に100mLの増加は、あらゆる癌のハザード比が1.18、乳癌が1.23でした。
人工甘味料を含め砂糖入り飲料水、フルーツジュースを常飲することは、肥満、高血圧、2型糖尿病の発症リスクを上昇させるのみならず、発癌を高めるリスクが潜んでおり、注意が必要です。
6月の話題
女性における脂質レベルと出血性脳卒中リスクとの関係
今回の19.3年に亘る前向きコホート研究では、Women's Health研究に組み入れられた女性2万7937人を対象に、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪と脳梗塞との関係が調査されました。
LDLが100-129.9mg/dLに比べてLDL70mg/dL未満では、出血性脳卒中は
相対リスク2.17倍と高く、一方、LDL130-159.9mg/dLと70-99.9mg/dLでは、 リスクの上昇は認められませんでした。160mg/dL以上では、有意ではなかったもののリスクが上昇する可能性が示唆されました。
さらに、中性脂肪も空腹時74mg/dL以下または非空腹時85mg/dL以下では、最も高い四分位群と比較し出血性脳卒中は2.0倍高くなることも示されました。
HDLや総コレステロールと出血性脳卒中のリスクとは相関が認められませんでした。
この結果は、現在のようにスタチンが広く使われる前に採血が行われており、元々低値であった女性のリスクを示したものと言えます。したがって、LDLや中性脂肪が高値で、薬剤によって低下させた場合、同様の結果が得られるかはわかりません。一方で、LDL値をどこまで下げるべきか専門家の意見も分かれています。
JAMA Netw Open 2019;2(5):e194798
2型糖尿病の合併症の中で末梢神経障害は最も重要な合併症の一つです。私たちが行った高齢者糖尿病の研究でも、末梢神経障害はとくに男性でフレイルのリスク因子でした。
今回の報告では、血清コレステロール低値と末梢神経障害との関係をMRI画像を用いて解析しています。単施設横断的前向きコホート研究が実施され、256人のエントリー患者のうち、適格基準を満たした100人が解析されました。
糖尿病性神経障害は、総コレステロール値とLDL値と負の相関を示しました。一方、HDL値との相関は示されませんでした。
今回の研究では、末梢神経障害を進展させるLDL値の閾値を示すことができませんでした。しかし、糖尿病のある方にとっては、低値過ぎるコレステロール値は見直す必要があるのかもしれません。
5月の話題
アミロイドβ阻害薬は認知症進行を抑制しない
N Engl J Med 2019; 380:1408-1420
アルツハイマー病の成因として、アミロイドβとそれに関連する分子が引き起こすアミロイド仮説が有名です。今回の報告では、アルツハイマー病の前駆症状はあるが認知症とは診断されない軽度認知機能障害を有する55歳~85歳の方を対象に、アミロイドβの産生を抑制しアミロイド斑の沈着を抑止するアミロイド前駆体タンパク切断酵素BACE-1阻害薬が、認知症進展を抑制するか検討されました。
結果は、臨床的はアルツハイマー病への進展を抑制することはできませんでした。PET検査による脳内アミロイドβ量は、アミロイドβ阻害薬群ではプラセボ群に比べ減少していたものの、MR画像では海馬の萎縮の進展度合いにプラセボ群と実薬群では差がありませんでした。
今回の結果は一つの治験に過ぎませんが、私たちは、認知機能が低下し始める早期から、食事や運動に注意しなければならないかもしれません。
「京のひろば」では、認知症を予防するための食事や運動を提案しています。是非ご覧頂ければと思います。
2型糖尿病の合併症として、腎症は大きな問題です。人工透析の原因疾患の第1位であり、行政も腎症の進展予防に力を入れています。 最近では、古典的な糖尿病腎症の経過を辿らない腎症も多くなっていることから、糖尿病性腎臓病という名前が多く使われるようになり、SGLT2阻害薬がその進展予防に有用なことが多くの研究で報告されています。
今回の治験では、選択的エンドセリンA受容体拮抗薬であるアトラセンタンが、顕性アルブミン尿を有する2型糖尿病者の腎機能を保護し、腎不全への進展抑制することが報告されました。対象は、年齢18~85歳、尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR) が300~500mg/gなどで、ACEIかARBを4週以上併用していることが条件でした。
ただし、効果のあった参加者は、UACRが51.8%減少、収縮期血圧も6.1mmHg低下していましたが、 効果のなかった参加者も27.8%いました。また、心不全の抑制効果は認められませんでした。
はっきりわかりませんが、効果のある対象者を選択できれば、新たな治療戦略として選択的エンドセリンA受容体拮抗薬が効果を発揮しそうです。
4月の話題
抗TPO抗体陽性者への受胎前レボチロキシン投与
TPO抗体陽性の妊婦では、甲状腺機能が正常であっても流産や早産のリスクになることが報告されています。レボチロキシンの投与は、それらの発生率を低下されることが期待されています。今回のTABLET試験では、イギリスの49病院、19585人の女性の中から、それぞれ476人のレボチロキシン群とプラセボ群を対象に、受胎前から妊娠末期までのレボチロキシンの投与の有効性を検討しました。主要評価項目は妊娠34週後の生児出生でした。
妊娠率は、レボチロキシン群56.6%m、プラセボ群58.3%で、妊娠34週以降の生児出生率は、レボチロキシン群37.4%、プラセボ群37.9%で、差は認められませんでした。あた、流産や早産の妊娠転帰にも有意差は認められませんでした。
今回の結果からは、甲状腺機能が正常のTPO抗体陽性の女性に対してレボチロキシンの投与は、必ずしも妊娠率の上昇や流産や早産のリスク低下には繋がらないことが示されました。
コレステロールは、飽和脂肪酸や動物性タンパクなどと混在して食物に含まれるため、食事からのコレステロールの摂取は、心血管疾患やその死亡と直接関連するかは必ずしも一定しか見解は得られていません。食事からのコレステロールのソースは、卵や赤身肉、鶏肉、魚介類、乳製品が主ですが、とくに卵の黄身は、食事性コレステロールが多く、50gの大サイズの卵は186mgのコレステロールを含むとされています。
ARIC、CARDIA、FHS、FOS、JHS、ESAの6つの前向きコホート研究から29615人が解析されました。追跡期間の中央値は17.5年で、CVDイベントが5400件、全死亡が6132件発生しました。食事性コレステロールまたは卵の摂取の増加に伴い、CVDイベントと全死亡は単調な増加が認められ、300mgの増加毎に、CVDイベントのハザード比が1.17、全死亡が1.18増加しました。卵の摂取も個数の増加に伴い単調にリスク増加が認められ、1日あたり1/2個増加する毎に、CVDイベントと全死亡のハザード比はぞれぞれ1.06、1.08増加しました。ただし、卵の摂取は、食事性コレステロールの消費量で調整するとそのリスクは消失しました。
本研究では、食事性コレステロールまたは卵の摂取は用量依存性にCVDイベントと全死亡を増加させることが明らかとなりました。
3月の話題
フレイル・サルコペニアの進展因子は男女差がある
Ther Adv Endocrinol Metab. 2019 Mar 5;10: 2042018819833304. doi: 10.1177/ 2042018819833304. eCollection 2019.
日本は超高齢社会を迎え、フレイルやサルコペニアの問題がクローズアップされています。とくに糖尿病では一般高齢者よりも早期からフレイルやサルコペニアになりやすいと報告されています。しかし、日本糖尿病患者さんにおいて、その進展因子は明らかではありませんでした。フレイルやサルコペニアの進展リスクには、共通の因子と男女別の因子がありました。
共通のリスクとしては末梢神経障害が挙げられました。男性に特異的な因子としては、冠動脈疾患の既往、年齢、無職、独居が挙げられました。一方女性では、家族との同居、食事制限、不規則な生活が挙げられました。さらに、フレイルやサルコペニアを予防するには、男性では、適切な食事が、女性では骨格筋量の多さ、独り暮らし、LDLコレステロール高値が挙げられました。
もともと男女では体格が異なり、日本では社会的な役割も異なることがあり、男女別にリスクを評価し、介入する必要性があるようです。
JAMA Neurology 2017では、認知症発症のリスクとして、中年期の喫煙や糖尿病、高血圧がリスクになることが報告されています。また、Lancet 2017では、中年期の聴力低下が大きなリスクであることも発表されています。認知症を予防するには、食事や運動が重要であることが報告されています。とくにMIND食は認知症発症を予防できる (Dementia 2015) ことが報告されています。
今回の発表では、中年期の食事内容は認知症発症とは明らかな関係がないというショッキングなものでした。認知症のない男女8225名を中央値で24.8年もフォローした長期前向きコホート研究で、食事の質の評価は11の要素からなる食事の質スコアAHEIを用いています。公務員を対象としており信頼性は高いとされています。多変量解析の結果では、AHEIスコアと認知症発症リスクとの間には有意差が認められませんでした。ただし、著者も、食事が重要ではないといっているわけではないと述べています。
昔から医食同源といいます。健康的な食事をして悪かったということは一度もないのですから、バランス良く食事をすることに越したことはありません。
2月の話題
妊娠合併症は長期の心血管疾患罹患率と死亡のリスクである
Circulation 2019;139:1069-1079
妊娠中の子癇や高血圧、糖代謝異常は、産後の母親の心血管疾患リスク上昇につながることが知られている。本研究では、84の研究から28,993,438人をも対象に、妊娠合併症と長期の心血管疾患リスクとの関について系統レビュー・メタ解析を行った。観察期間の中央値は産後7.5年であった。その結果、心血管疾患のリスクのオッズ比は、妊娠高血圧症候群1.7、子癇前症OR:2.7、常位胎盤早期剥離1.8、早産1.6、妊娠糖尿病1.7、死産1.5であった。低出生体重児や在胎期間相当の体格よりかなり小さく生まれた新生児の出産でも心血管疾患リスクは上昇したが、流産では増加しなかった。
このことから、妊娠中に何かしらの合併症を有した母体においては、産後の長期のフォローアップが必要であり、産後教育が重要になると考えられます。
1型糖尿病と学力~差はなし~
JAMA Network 2019;321:484-492
1型糖尿病のお子さんを持つ親は、お子さんの学力が気になるかもしれません。デンマークから、1型糖尿病の学童と同世代の糖尿病でない学童との間で、標準的学力(読解と算数)は変わらないと報告がありました。
631,620人の公立学校に通う平均年齢10.3歳の小学生を対象に、算数は524,764人、読解1,037,006人がテストを受けました。1型糖尿病の小学生は2,031人含まれていました。1型糖尿病を持つ小学生のスコアの平均点は56,56だったのに対し、糖尿病を持たない小学生のスコアの平均点は56.11点で、全く差がありませんでした。
糖尿病を抱えての生活は大変ですが、国も社会も医療費を含め適切にサポートできれば、1型糖尿病を持つお子さんは同世代のお子さんと変わらず成長できることを示してくれました。
1月の話題
N Engl J Med 2019;380:23-32
オメガ3系脂肪酸(オメガ3)は多価不飽和脂肪酸の一種で、脂肪の多い魚や貝類・甲殻類などの食品に含まれています。EPAやDHAなどサプリメントとしても人気な栄養素です。最近では、亜麻仁油も人気です。
心血管イベントの抑制や炎症抑制、脂質代謝改善などの効果が期待されています。
しかし、1月3日に発表されたアメリカでの研究では、必ずしもよい結果が得られていません。25871人を対象とした無作為化プラセボ対照試験で、ビタミンD3を2000単位/日摂取する群とオメガ3を1g/日摂取する群を二要因デザインを用いて解析しました。観察期間の中央値は5.3年で、心血管イベントは心筋梗塞の発症、脳梗塞の発症、それらによる死亡とし、癌は、いずれの進行癌としています。
もともと心血管症が少ない日本人にも当てはまるかはわかりませんが、健康維持を目指すことは悪いことではないと考えられます。
N Engl J Med 2019;380:33-44
ビタミンD3の低下は骨粗鬆症や認知症、心血管イベント、悪性腫瘍発症と相関するとされ、積極的な摂取が望まれています。
しかし、1月3日に発表されたアメリカでの研究では、必ずしもよい結果が得られていません。25871人を対象とした無作為化プラセボ対照試験で、ビタミンD3を2000単位/日摂取する群とオメガ3を1g/日摂取する群を二要因デザインを用いて解析しました。観察期間の中央値は5.3年で、心血管イベントは心筋梗塞の発症、脳梗塞の発症、それらによる死亡とし、癌は、いずれの進行癌としています。
一方で、皮膚癌を恐れ極端に日に当たることを避けるのも、骨粗鬆症などのリスクとなり危険です。ビタミンDは日光により活性化されます。普通に日常生活を送ることが望まれます。